世界のプログラミング教育事情と日本の現状比較

はじめに

イントロダクション

プログラミング教育は、21世紀のスキルとして世界中で注目を集めています。各国の教育システムや文化的背景によって、プログラミング教育の導入方法や内容は異なります。本記事では、世界各国のプログラミング教育事情を概観し、日本の現状と比較することで、日本のプログラミング教育の特徴や課題について考察します。

欧米諸国のプログラミング教育事情

アメリカ:STEM教育の一環としてのプログラミング教育

アメリカでは、STEM(科学、技術、工学、数学)教育の一環として、プログラミング教育が推進されています。オバマ政権時代の2016年には、「コンピュータサイエンス・フォー・オール(CS for All)」イニシアチブが発表され、全ての生徒にコンピュータサイエンス教育を提供することが目標とされました。

各州や学区によって取り組みは異なりますが、小学校からハイスクールまで、プログラミングの基礎概念を学ぶ機会が増えています。コーディング教育に特化した非営利団体「Code.org」は、オンラインでのプログラミング学習プラットフォームを提供し、多くの学校で活用されています。

イギリス:ナショナルカリキュラムにプログラミングを必修化

イギリスは、2014年にナショナルカリキュラムを改訂し、5歳から16歳までの全ての生徒に対してコンピューティング教育を必修化しました。これにより、プログラミングの基礎概念やアルゴリズム的思考を学ぶことが義務付けられています。

初等教育段階では、Scratch等のビジュアルプログラミング言語を用いて、プログラミングの基礎を学びます。中等教育では、Python等のテキストベースの言語を学び、より高度なプログラミングスキルを身につけます。また、コンピュータサイエンスの教員養成にも力を入れており、教員のプログラミング指導力向上に取り組んでいます。

フィンランド:創造性と問題解決能力の育成に重点

フィンランドは、教育先進国として知られ、プログラミング教育においても独自の取り組みを行っています。2016年からプログラミングを必修化し、小学校低学年から論理的思考力や問題解決能力の育成に重点を置いています。

フィンランドのプログラミング教育は、コーディング技能の習得だけでなく、創造性やデザイン思考の育成にも重点を置いています。子どもたちは、ゲームやアニメーション、ロボット制御等の楽しいプロジェクトを通じて、プログラミングの基礎概念を学びます。また、教科横断的なアプローチを取り、数学や理科、芸術等の教科とプログラミングを結びつけた学習も行われています。

アジア諸国のプログラミング教育事情

中国:国家戦略としてのプログラミング教育推進

中国では、2017年に国務院が「次世代人工知能発展計画」を発表し、AIを国家戦略として位置づけました。この計画の一環として、プログラミング教育の推進が掲げられ、小学校からのプログラミング必修化が進められています。

中国の教育部は、2018年に「プログラミング教育ガイドライン」を発表し、小学校低学年からプログラミングの基礎概念を学ぶことを目指しています。また、教員のプログラミング指導力向上のための研修プログラムも実施されています。中国の大手IT企業も、プログラミング教育に積極的に関与しており、教材開発や教員研修等で学校教育を支援しています。

韓国:初等教育からのプログラミング必修化

韓国は、2018年からプログラミングを小学校の必修科目とし、初等教育段階からのプログラミング教育を推進しています。小学校では、ビジュアルプログラミング言語を用いて、プログラミングの基礎概念を学びます。中学校・高等学校では、より高度なプログラミングスキルを身につけ、アルゴリズム的思考力や問題解決能力の育成が図られています。

韓国政府は、ソフトウェア教育の活性化を目的とした「ソフトウェア教育の義務教育化計画」を策定し、教員研修や教材開発、インフラ整備等に取り組んでいます。また、放課後のプログラミング教室や、企業と連携したプログラミング教育プロジェクト等、学校外でのプログラミング学習機会も充実しています。

シンガポール:21世紀型スキルの育成に注力

シンガポールは、21世紀型スキルの育成を教育の重点目標に掲げ、プログラミング教育にも力を入れています。2014年から小学校でプログラミングの基礎を学ぶ「Code for Fun」プログラムを導入し、2020年からは中学校での必修化を予定しています。

シンガポールのプログラミング教育は、コンピュテーショナルシンキング(計算論的思考)の育成に重点を置いています。これは、問題解決のためにコンピュータサイエンスの概念を活用する力を指します。子どもたちは、プログラミングを通じて、論理的思考力、創造力、協働力等の汎用的スキルを身につけます。また、学校外でのプログラミング教育も盛んで、政府主導のプログラミング教室や民間のコーディングスクール等、多様な学習機会が提供されています。

日本のプログラミング教育の現状

2020年からの小学校プログラミング教育必修化

日本では、2020年から小学校でのプログラミング教育が必修化されました。文部科学省は、プログラミング教育の目的を「プログラミング的思考の育成」としており、プログラミングの基礎概念を学ぶことで、論理的思考力や問題解決能力の向上を目指しています。

小学校では、主に算数や理科等の教科の中で、プログラミングの基礎的な概念を学びます。例えば、算数の授業で図形の構成をプログラミングで表現したり、理科の授業で条件分岐の仕組みを学んだりします。使用される言語は、Scratch等のビジュアルプログラミング言語が中心です。

教員のプログラミング指導スキルの課題

一方で、日本のプログラミング教育には課題もあります。その一つが、教員のプログラミング指導スキルの不足です。多くの小学校教員は、プログラミングについての専門的な知識やスキルを持っておらず、指導に不安を感じているのが現状です。

文部科学省や各自治体は、教員向けのプログラミング研修を実施していますが、研修内容や頻度は地域によって差があります。また、プログラミング教育を専門とする教員の配置は限定的で、学校現場での指導体制の整備が課題となっています。

民間企業やNPOによる教育支援の広がり

教員のプログラミング指導スキルを補う形で、民間企業やNPOによる教育支援の取り組みが広がっています。教育系ベンチャー企業がプログラミング教材や指導者派遣サービスを提供したり、NPOがプログラミングワークショップを開催したりと、学校教育を支援する動きが活発化しています。

また、公民連携の取り組みも見られます。文部科学省は、「未来の学びコンソーシアム」を発足し、企業や大学、自治体等と連携してプログラミング教育の充実を図っています。こうした官民協働の取り組みは、学校現場の負担軽減と教育の質の向上に寄与することが期待されます。

日本のプログラミング教育の特徴と課題

「プログラミング的思考」の育成に重点

日本のプログラミング教育の特徴の一つは、「プログラミング的思考」の育成に重点を置いていることです。プログラミング的思考とは、問題解決のために必要な論理的思考力や創造力、コミュニケーション能力等を指します。

日本の学習指導要領では、プログラミングを通じて、「プログラミング的思考」を育成することが目標とされています。これは、プログラミング言語の習得自体ではなく、プログラミングの基礎概念を学ぶことで、論理的思考力や問題解決能力を身につけることを重視しているといえます。

ビジュアルプログラミング言語の活用

日本の小学校プログラミング教育では、Scratch等のビジュアルプログラミング言語が主に使用されています。ビジュアルプログラミング言語は、ブロックを組み合わせてプログラムを作成するもので、テキストベースのプログラミング言語に比べて初学者にとって取り組みやすいという利点があります。

ビジュアルプログラミング言語を用いることで、子どもたちは、プログラミングの基礎概念を直感的に理解しやすくなります。また、ゲームやアニメーション作成等の楽しいプロジェクトを通じて、プログラミングへの興味関心を高めることができます。

カリキュラムや指導法の標準化の必要性

一方で、日本のプログラミング教育には、カリキュラムや指導法の標準化が課題として挙げられます。現状では、学校や教員によってプログラミング教育の内容や方法にばらつきがあり、児童生徒の学習到達度に差が生じる可能性があります。

この課題に対応するため、文部科学省は、プログラミング教育の指導事例集や評価基準の作成に取り組んでいます。また、教員研修の充実や、教員間の情報共有の促進等、指導の質の平準化に向けた施策が進められています。

中学校・高等学校におけるプログラミング教育の継続性

小学校でのプログラミング教育必修化に伴い、中学校・高等学校におけるプログラミング教育の在り方も検討課題となっています。現行の学習指導要領では、中学校の技術・家庭科でプログラミングに関する内容が扱われますが、高等学校では必修化されていません。

小学校から高等学校までの一貫したプログラミング教育を実現するためには、各教育段階の学習内容の連携や、系統的なカリキュラムの構築が必要です。また、高等学校におけるプログラミング教育の必修化や、大学入試におけるプログラミング的思考の評価等、制度面での検討も求められます。

コンクルージョン

世界各国のプログラミング教育事情を見ると、それぞれの国の教育方針や社会的ニーズに応じた特徴があることがわかります。欧米諸国では、STEM教育の一環としてプログラミング教育が推進され、アジア諸国では、国家戦略としての位置づけやソフトウェア人材の育成が重視されています。

日本のプログラミング教育は、2020年の小学校必修化を契機に大きく前進しました。「プログラミング的思考」の育成に重点を置き、ビジュアルプログラミング言語を活用した教育が展開されています。一方で、教員の指導力向上やカリキュラムの標準化、中学校・高等学校におけるプログラミング教育の継続性等、課題も残されています。

今後は、世界の動向を参考にしながら、日本の教育現場に適した形でプログラミング教育を発展させていくことが重要です。官民協働の取り組みや、教員研修の充実、教材開発等を通じて、プログラミング教育の質の向上と普及を図っていく必要があります。また、小学校から高等学校までの一貫したカリキュラムの構築や、大学入試における評価方法の検討等、制度面での改革も求められます。

プログラミング教育は、単にコーディングスキルを身につけるだけでなく、論理的思考力や問題解決能力、創造力等の資質・能力を育成する上で重要な役割を果たします。これらの資質・能力は、急速に進化するテクノロジーの時代を生きる子どもたちにとって、欠かせないスキルといえます。

日本のプログラミング教育は、まだ発展途上の段階にありますが、世界の先進事例に学びながら、日本の教育現場に適した形で進化させていくことが期待されます。子どもたちの可能性を引き出し、未来を切り拓く力を育むために、プログラミング教育の一層の充実が求められています。

CTA

プログラミング教育に関心のある方は、以下のようなアクションを検討してみてください。

  • お子様の学校でのプログラミング教育の取り組みについて、先生方に相談してみる
  • 地域の教育イベントやワークショップに参加し、プログラミング教育の現場を体験する
  • オンラインの学習リソースを活用して、お子様とともにプログラミングの世界を探求する
  • プログラミング教育に関する書籍や記事を読み、最新の動向や事例を学ぶ
  • 教育委員会や文部科学省の情報発信に注目し、プログラミング教育の政策動向をフォローする

プログラミング教育は、子どもたちの未来を形作る上で重要な役割を果たします。保護者や教育関係者の皆様も、プログラミング教育への理解を深め、子どもたちの学びを支援していくことが大切です。ぜひ、プログラミング教育への関心を高め、子どもたちの可能性を広げるサポートをしていきましょう。

タイトルとURLをコピーしました